社会主義入門 “ 高校生から分かる「資本論」”

読書

こういうタイトルを付けてはみたものの、社会主義者ではない。別に。

シンプルに気になったのだ。第二次世界大戦後、一大ムーブメントを起こした社会主義の思想とはどんなものだったのか?その根底にあるのは何と言ってもマルクスの「資本論」。

とはいえ難しいのは嫌だ。原著は噂によるとめちゃくちゃに読みにくいらしい。

じゃあ簡単に解説してる本はないのか?と探したところ、あったのだ。どんなニュースも面白く話せる魔神、池上彰さんが解説している「資本論」。「高校生から分かる」と書いてある。これで理解できないなんてことはないだろう。大丈夫、日本だと高校を卒業している人がほとんどだ。

まず「資本論」ってどういう本なの?って話

私も勘違いしていたのだが、「資本論」は別に社会主義を推奨する本ではない。

資本主義社会の構造を明らかにし、その行き着く先を提唱した本なのだ。「資本論(並びにこの本)」を読んで「やはり資本主義社会死すべし!」と思うも「ビバ!資本主義!」と思うも自由である。日本は思想の自由が認められている素晴らしい国だ。

とはいえ、資本主義社会で生きている我々である。その社会の構造と問題点は知っていて損はないだろう。そして「資本論」のすごいところは(池上さんもそう書かれているが)140年以上前に書かれたこの内容が、今の資本主義経済にも当てはまることなのだ。

世の中は全てのものが「商品」であるという話

さっそく中身の解説に入る。

当然だがモノには値段がついている。今日食べたコンビニ弁当は498円だったし、この文章を読むのに使っているiPhoneには10万近くの値段がついているだろう。なんならモノだけではない。映画を見に行けば2000円近くかかるし、大好きな音楽を聴くためのSpotifyも月額980円だ。

こんな風に、この社会では何でも商品として値段が付いている。だから、その分の価値(≒お金)を出さないと何も手に入れられないようになっているというのだ。

我々も商品だという話

そう考えると、人の労働だって商品だ。月給20万円の社会人は、1日あたり約1万円で自分の労働を商品として「売る」のだ。というか改めて考えると日本の採用は凄いシステムである。社会人経験の全くない大学生という商品に、月額20万円のサブスクリプションで課金するわけだ。実際には社会保険料や研修費用・各種手当などもあるわけだから、20万では到底効かない。それで成り立っている日本企業、普通に凄い。

話が逸れた。要は「何か作りたい!」「こういう商売をしたい!」と考えた時に、「1人では作りきれない…誰かに手伝って欲しい」という状態になるわけだ。そんな時に「労働力」を「商品」として買ってくることになる。そうすることで工場で製品が作れるし、居酒屋で注文を取ってもらえるし、絵を書く人がいてアニメが作れるわけだ。

労働で生まれる価値と給与の差

そうすると、資本家はどうやって儲けているのかという話になる。我々が働いて得たお金と仕事で生まれた価値の差にカラクリがある。

例えば30万円分コンビニに商品を仕入れたとする。

そして時給1,000円で各時間2人ずつ店員を雇う。24時間で商品を売り切り、売り上げは40万円だった。

今は深夜給やワンオペの話を抜きにして単純計算すると、

2 × 24 × 1,000=48,000円で買った労働に対して、

40 – 30=10万円の利益(価値)が生まれる。

52,000円分オーナー(資本家)が儲かることになる。

別に利益が上がっても時給が上がるわけではない。どんどんオーナーが儲かる。この差を労働者が搾取され続ける。(実際にはオーナーも管理業務をやっていたり、フランチャイズ料があったりするのは言うまでもないのだが…)

この「差」は罪か?

店員が売上に貢献すればするほど、この「差」は大きくなる。これは当然悪い話なのかいうと、実はそうでもない。この「差」がないと社会全体の価値は増えていかないのだ。どういうことかというと…

100円で布を買った。100円を労働者に支払って服を作り、300円で商社に売った。商社は1000円を使って服を運び、2000円でお店に売った。お店は時給1000円で店員を雇って、1時間でこの服を4000円で売った。この服には4000円の価値があることになる。

一方で労働者が搾取されない素晴らしい世界ではどうか。100円で買った布は200円で商社に売られ、1200円でお店に運ばれ、2200円で皆さんが手に入れる。この服には2200円の価値しかない。

この1800円の差が社会に貯金されることで、社会全体としては豊かになっていくというのだ。マルクス、意外なこと言ってる。

「差」を大きくするために、効率的に働かせる

資本家としては、効率的にお金を増やしたい。そうするとどうなるか?そう、搾取率を上げればいいのである。よし、じゃあ24時間無休で働かせよう!!!なんてことになれば、もちろん労働者は過労でぶっ倒れるだろう。そもそも労働基準法で労働者は守られているので、そんなことはできないようになっている。なので、資本家は労働者に効率的に働いてもらうように取り組む。

工場で分業が行われたり、機械が導入されるのもその一例だ。効率化が行われることで、30人でやっていた仕事が10人、10人の仕事が3人の仕事へと減っていく。そうなると27人は行き場所を失う。失業してしまうわけだ。

この世界で職を得ようとすると、3人側で働ける能力が必要になる。そのためには例えば機械が動かせる・直せるという価値が必要になる。そうすると、社会全体としては価値を身に付けさせようという動きになるので、全体の教育レベルはぐんと伸びる。皮肉な話である。

資本の巨大化と統合化・そして資本主義の崩壊

効率的に労働者を働かせて、効率的に資本を増やす。そうすると、資本を大きくするために他社との競争が起きる。負けた企業は潰れる。勝った企業だけが残る。資本家の絶対数は減り、貧富の差がどんどん拡大して不満を持つ労働者が増える。その不満を社会が飲み込めなくなった時に、労働者団体による暴動が起きて資本家たちが打ち倒されるのだ、とマルクスは言っているのだ。

社会主義がうまくいかなかった原因

そうすると、いずれ崩壊する資本主義を打ち倒して新しい国家をつくればいいのでは?と考えたのがいわゆる社会主義国家だった。確かに一見そう思える。

が、うまくいかなかったのには問題があったと池上さんが解説している。

まず働かなくてもお金がもらえるから、働かなくてもいいやという人が続出したこと。

頑張っても頑張らなくてももらえるお金は一緒なのだから、まあ働かないよね。それによって社会全体の価値が下がり続けてしまった。

また、労働者による革命ではなかったこと。皆が協力していい社会を作っていこうね、という労働者がいなかったのだ。そのために歪みが起こってうまくいかなかったという考え方があるのだそうだ。

まとめ

実際にはマルクスが指摘した問題点をうまく解決しようとする人たちが現れたりしながら、今のところは資本主義経済の世の中が続いている。

この資本主義の構造を140年前に見抜いていたマルクス、本当にすごい。我々もこの構造を理解したうえで、この社会をどうやって生き抜いていくか考えたいものだ。

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