正直、久しぶりに中田敦彦さんの動画を見たと思う。
「日課のトレーニングをやるか〜」とYoutubeのトレーニング動画を開こうとしたとき、「安いニッポン」という衝撃的なサムネイルが目に入った。
私は気づくと再生ボタンを押していた。タイに住んでいて「意外とモノが安くないな」と実感し、イギリスは家賃20万円オーバーが普通という友人の話を聞いて、「日本って意外と物価が安かったんだな〜」と思っていた私にとってタイムリーすぎる動画だったのだ。
内容が面白すぎて、元になった本を買ってその日のうちに読み切ってしまった。
せっかくなので、今回はその本の内容をまとめてみたいと思う。
↓タイの物価が案外安くないことについてまとめた記事はこちら
安すぎるニッポン、安いことがよいとされる価値観
実際問題、日本の物価は異様なまでに安い。そう言われてもピンとこない人も多いのではないだろうか。かくいう私もそのうちの1人だった。
だが、世界に目を向けてみると突出して日本で安いものがいくつもある。
そのうちの1つがディズニーランド。東京ディズニーランドの入場料は8,200円(2021年2月)。しかし、ディズニーのお膝元フロリダではなんと約1万4500円。なんと2倍近い値段である。いやいや、アメリカだから高いんでしょ?と思う方もいらっしゃるかもしれない。しかし、お隣中国・上海でも入場料が1万円を超える。そう、東京だけが異様に安いのだ。
安いのはディズニーランドだけではない。
日本人なら誰でも知ってる100円ショップ、ダイソー。実は他の国では100円ではない。物価の安いイメージがあるタイでは、同じ商品が約200円で売られている。中国では160円。日本から持っていっているから高いのでは?と思われる方もいらっしゃるかもしれない。しかし中国から調達される製品があるのにも関わらず、中国の方が同じものが高く売られているのだ。
ちなみにタイ・バンコクに先日スシローが進出したが、その値段は1皿40バーツ(140円)。日本より高い。
安い方が良くない?と思う価値観、実は異端!?
「いやいや、同じものなら安い方がいいに決まってるじゃん。」そう思う方も多いだろう。
その価値観を象徴するのが、こちらの赤城乳業のCMである。
社長はじめ役員総出で立ち並び、25年間やらなかったガリガリ君を10円値上げするために深々と頭を下げる。こんな思い切ったこと、普通の会社にはなかなかできない。衝撃のCMである。
このCMが生まれた社会的背景には、「値上げは悪だ」「安い方がいい」という日本に醸成された空気感の中で、企業がなかなか値上げに踏み切れないという経緯がある。
捉えようによっては「お客様のために25年間頑張った」となるのだが、言い方を変えれば「消費者感情が値上げを許さなかった」ということなのだ。確かに、今まで60円だったものが70円になっていたら「買うのをやめようかな…」となるのが一般的な心理だろう。
しかし、海外では同じ意見ではないようなのだ。
なんとこのCM、ニューヨークのタイムズ紙の1面に載るほどの大反響を起こす。その背景には「“値上げするのは当たり前のことなのに”、それを社長が自ら出て深々と頭を下げるなんて、なんて素晴らしい会社なんだ!」という感覚がある。赤城乳業の対応はアメリカ人にとっては“異常”なのだ。
そう、彼らにとって値上げをするのは「当たり前のこと」。なぜこんな違いが生まれてしまったのか。
その感覚の違いは、長いデフレ傾向の中で「製品の値段を上げるのが良くないことだ」という風潮ができてしまったことだ。これにより、製品の値上げができない→企業が稼げない→労働者の賃金が上がらない→買い物ができない→製品の値上げができない…という負のループに入っているという。
時々取りだたされる「ステルス値上げ」もこの影響だろう。安い方がいい、という価値観を持っている消費者に「値段を上げました!今までと中身は一緒!」と言ったら買ってくれなくなるのは当然だ。そうしたら、中身をこっそり減らす、原料をしれっと安いものに置き換える…企業がそうせざるを得ないのではないだろうか。
モノは安いけど、ヒトも安い
そしてモノが安くて企業が利益を載せにくい環境になってしまっている日本では、当然企業は儲かりにくい。そうするとどうなるか。給料も上がらないのだ。なんと30年間賃金が成長していないという。
なんと平均年収はアメリカやドイツ、イギリスのみならず、スペインや韓国よりも低い。
そのうえ労働生産性は主要先進国で最低。もはや日本は先進国と言えない時代になっている。
なぜそんなに日本の労働生産性が低いのか。その一因として「長い残業時間」が挙げられている。土日返上・毎日日が回るまで残業が当たり前、流石にそんな会社は減ってきているのかもしれない。しかし、いまだに残業前提で仕事をして、休暇を取るのが何だか悪いことに思える方も多いのではないだろか。労働生産性という観点から考えれば、これは完全に負の風潮と言わざるを得ないだろう。
お買い得ニッポン
モノの値段もヒトの値段も上がらない日本。しかし、日本の製品やサービスの質は高い。そんな日本は海外から見ればとってもお買い得に見える。そうして色んなモノやサービスが海外に買い叩かれ始めている。
①買われるリゾート
代表格はニセコ。スキーリゾート地として人気の高いニセコには、海外からの投資が集まった。その結果、2019年の地価上昇率はなんと66.7%上昇。そんな地価上昇を反映してか、家賃や物価もぐんぐん上がっている。なんとハンバーガーセットやラーメンが2,000円ほどするという。さながらイギリスにいるかのよう。この人気は地元民にとっては複雑な様子で、家賃が高くなりすぎて出ていく町民もおおいのだとか。
②買われる企業
近年、技術があるのに日本の大手が興味を示さず、部品メーカーや消費財メーカーなどが海外企業に安く買い叩かれる事例が増えたという。経営が難しくなった中小企業も日本企業には買ってもらうことができず、中国や台湾などの資本で生き延びるケースも少なくないようだ。安くていいものを作れる日本の中小企業は彼らに取ってお買い得なのである。
③買われる人材
日本の給料が安いことで、人材も買われる。その代表的な例がアニメーターだ。日本のアニメーターは驚くほど賃金が安い。初年度年収は110万円という調査もあるそうだ。だが一方で日本のアニメ産業のレベルは高い。つまり、すごく安くて能力の高い人材を買えるということになる。最近、日本に拠点を作って日本人アニメーターを抱え込む中国企業の動きが増えているという。
安いことは正義なのか?これからのニッポン
ここまで安いニッポンのリアルを書いてきた。消費者感情的には「安いことがいいこと」と思っていたがどうもそれだけではないようだ。日本の安さはいずれ問題となって日本に帰ってくることになるといいう。その理由として挙げられているのが以下の4点だ。
- 輸入品の値段が上がって買えなくなったり、旅行先での滞在費が上がるため海外旅行に行きにくくなる。
- 英語ができて能力の高い日本人は海外企業に流出してしまう。
- 経済的な理由で海外留学ができなくなる。英語ができずに能力の低い人は外国人に安い給料で雇われることになる。
- その結果、日本の国際競争力がどんどん下がっていく。
おおげさなようにも見えるが、私も割と嘘ではないように思える。アフターコロナの時代に、痛みを伴いながらも変わらないといけない時がきているのかもしれない。
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